2012年8月23日木曜日

北朝鮮利権と族議員

「北朝鮮族」とは、政党の訪朝団を積極的にまとめ参加する政治家たちである。北朝鮮族の代表として関係者が認めるのは≒竹下登元首相である・竹下元首相の意向を無視しては誰も日朝問題に手を出せなかった。なぜなのか。竹下元首相が、大蔵省に絶大な影響力を持っていたからである。日朝国交正常化の際に「正常化資金」の額を決めるのは、竹下元首相しかいないとみられていたからだ。それはまた、政治資金にもつながる影響力であった。

竹下元首相以外では、自民党では元竹下派の野中広務幹事長が北朝鮮との深い関係を自他共に認めてきた「最大の実力者」である。ただし、野中幹事長の場合は金容淳書記との個人関係が全てで、全容淳書記を過大評価し過ぎたきらいがある。金容淳書記が工作機関の責任者であるとの認識と国益への配慮がやや足りなかったのではないか、と私は判断している。北朝鮮も冷たいもので、二〇〇〇年の夏ごろから野中氏の影響力にかげりが見え始めると平壌は「野中の次の実力者ぱ誰か」と、日本で聞きまわったりした。

この他には中山正暉衆議院議員や加藤紘一元幹事長、山崎拓元政調会長らも北朝鮮に強い関心を寄せた。加藤元幹事長と山崎元政調会長は、その後は北朝鮮問題に距離を置くようになってい

中山議員の場合は、最初は日本人拉致疑惑に関心を寄せ「拉致議連」の会長まで務めたが、一九九七年の訪朝団に加わった後で態度を百八十度変えた。「拉致問題は、国交正常化後に解決すべき」などと発言し、早期の日朝正常化を主張し批判を浴びた。なぜ、中山議員が訪朝後に北朝鮮への姿勢を変えたかについては。納得できる説明は報じられていない。

野党では、旧社会党時代から深田肇元議員と北朝鮮との関係が知られている。深田元議員も、金容淳書記と親しい関係にあったといわれる。旧社会党は、党ぐるみで「北朝鮮族」と呼んでもいいほどの状況にあった。それでも、村山富市元首相だけは北朝鮮にはまったくかかわらない姿勢を貫いたが、一九九九年末に訪朝団の団長に祭り上げられ、その後は日朝友好親善団体の会長職におさまっている。

日本の政治家は、なぜ北朝鮮にそれほどの関心を示すのか。これは、アメリカ政府当局者が常に抱く疑問である。アメリカの政治家の場合は、外国について日本の「北朝鮮族」のような肩入れは見られないからである。金丸訪朝団以来、アメリカの政府当局者は日本の政治家は日朝正常化資金にまつわる政治資金に期待している、と考えている。

それは、正常化資金が適用される経済プロジェクトを受注した企業からの「政治献金」への期待である。正常化資金の金額については、六〇億ドルとも一〇〇億ドル(約一兆円)ともいわれている。その資金が提供される建設プロジェクトを、日本企業が受注するように北朝鮮側の実力者と話をつければ、政治家は政治的な裏金を受け取れるのではないかと。アメリカ政府はみているのである。こうした疑惑を払拭するためには、日本の政治家は「正常化資金ノータッチ宣言」をすべきであろう。

日朝秘密外交接触・一九九九年一〇月

北朝鮮の統一戦線部の干渉を排除して、両国の外務省同士の接触が図られたことが一度だけあった。

一九九九年一〇月一八日から二〇日まで、シンガポールで日本外務省の北東アジア課長と北朝鮮の日本課長の秘密会談が行われた。このおよそ半年前にも、シンガポールで日本のアジア局長と北朝鮮側の日朝交渉大使との秘密会談が行われたことがあった。この時は。アジア太平洋平和委員会の担当者が同席しており、外務省同士の会談ではなかった。

この一〇月の外務省同士の秘密会談には、統一戦線部は強く抵抗したが、金正日総書記の許しを得て実現したのだった。関係者によると、シンガポールでの両国外務省の課長会談では、一九九九年の一二月末までに国交正常化交渉の予備会談を開催することで合意したのだった。予備会談の日時については、二一月二〇日頃に行うことになった。また、その後に本交渉を再開することでも、基本合意したという。

そのまま事が運べば、日朝の外交当局者による初の合意で正常化交渉が再開され、外交当局を中心にした外交展開が行われたはずであった。ところが、日本と北朝鮮の国内状況は、外交当局の単独行動を許すほど単純ではなかった。外交当局に主導権を奪われては困る人たちが、東京と平壌には存在したのである。

もっとはっきり言えば、「白分たちが日朝正常化交渉の再開に道を開いた」と喧伝したい人たちがいたのである。そうすることで、日朝関係への発言権を強化できるからである。国益を考えるなら、政治家が前面に出ずに外交当局にまかせて、交渉目的の実現を図るべきである。ところが、国益よりも私益優先に必死になる人々が日朝の双方に存在したのである。

日朝交渉に道筋を開いたと報道させることが、どうして私益優先になるのか。日本の政治家にはよく知られるように「族議員」といわれる人たちがいる。「建設族」や「郵政族」「文教族」である。こうした族議員は、業界と結びついて政治資金を得ていると一般には受け止められている。同じように、朝鮮問題に関わろうとする政治家がいる。この本ではあえて「北朝鮮族」と命名しておきたい。ともかく、外交政策で政治家が功名心に走り、利権に群がるのは中曽根康弘元首相も指摘している通り、危険である。国益を失わせ、国家に損失を与えるからだ。