2013年3月30日土曜日

新聞社は読者の写真を待っている

上手い写真と良い写真、いったいどこが違うのでしょう。それは、写真の持っている言葉の数だと思います。見る人にどのくらい語りかけることができるか、伝えることができるかの違いだと思うのです。自分では良い写真が撮れたと思うんだけど自信がない、説明する適当な言葉が見つからない。それでいいのです。写真は人に見せると勝手に喋り出します。見る人も勝手に解釈します。お褒めの言葉をいただくこともあれば、聞きたくない感想を耳にすることもあるでしょう。遠慮のない批評には腹が立つでしょうが、怒りは我慢する。あらゆる芸術作品は、生まれ落ちた瞬間から一人歩きをするといわれますが、写真も同じです。

人は時に、思わぬ事故に遭遇したり目撃したりします。そのとき、もしカメラを持っていたら? あるいは、めずらしい雲や町なかでお目にかかるはずのない珍獣、間違いなく話題になるような光景を写真に撮ったとき、あなたはどうしますか。こんなときは新聞社に電話をすると、あわててオートバイをすっ飛ばしてくるかもしれませんよ。もし新聞に掲載されれば、あなたの名前のクレジットが載るだけでなく、わずかながら稿料も支払われるはずです。

新聞社には毎日、少ない日でも数件の写真提供の連絡があり、そのうち約半数が紙面に掲載されているそうです。そうした読者からの一報に備え、どの大手新聞社も専門の係が二十四時間体制で待機しています。新聞は読者からの写真を待っているのです。不使用の場合はフィルム代程度、掲載されれば相応の稿料と掲載月の読者写真コンテストの参加資格が与えられ、月間賞に選ばれれば数万円、年間グランプリに輝けば賞金のほかに副賞として高級カメラがもらえます。賞金・副賞あわせて金額にして百五十万円相当といいますから、バカにできません。

そのほか、同じ社の出版物である週刊誌や写真年鑑にも載れば、そのたびに稿料が支払われます。偶然に撮った写真でも、報道写真として優れてさえいれば、それ相応の扱いを受け、名誉も与えられるのです。大手新聞社の中には、写真技術の向上や読者の新聞写真に対する関心を深める目的で、撮影会やコンテストなどに便宜をはかる組織を持つところもあります。特に会員数が多く、アマチュア写真家の間でよく知られているのが、朝日新聞社の全日本写真連盟(全日写連)と毎日新聞社の日本報道写真連盟(日報連)の二つです。入会金は全日写連が五百円、日報連が六百円で、誰でも会員になれます。年会費はどちらも五千円で、毎月、会報が送られてきます。会報には、読者からの投稿写真の講評や、写真コンテストの募集案内や発表、撮影会のお知らせな
どが掲載されています。

また新聞社は、外国で突発事件が起こったときなど、事件に遭遇した旅行者が現場をカメラに納めている可能性もあるので、成田空港の到着ロビーに張りつき、その国から到着した乗客に片っぱしから写真の有無をたずねるということまでしています。一九八九年に中国で天安門事件が起きたとき、毎日新聞は成田空港で二十人くらいの乗客からフィルム提供を受け、紙面を生々しい写真で飾りました。