2014年11月4日火曜日

年俸制の根底にある人事評価

アメリカの場合、労働市場が日本に比べればはるかに開放的かつ流動的である。経営者を含め、つねに人材のスカウトや転職が行われており、その結果として市場価格が先行して決まり、それが企業の内部評価に反映することが多い。実際、スカウトが提示した価格をテコにして内部で昇給交渉を行う事が少くない。

年俸制の根底にある人事評価、人材評価はこれからますますその重要性を増すことになるであろうが、能力評価の発展は流動性のある外部市場の発展と相互に補完しながら進んでゆくものと思われる。定期昇給制度や賃金体系の見直しにともなって直面せざるを得ない大きな問題に昇給カーブの問題がある。これは年齢賃金プロファイルあるいは勤続-賃金プロファイルの問題と言いかえてもよい。

年功的な賃金・雇用制度の下で、新卒者として入社してからそのまま会社につとめつづけた従業員の場合には年齢-賃金プロファイルも勤続-賃金プロファイルも一致するが、別の会社などで年月を過ごして途中入社した人の場合には、この二つのプロファイルは外の経験が内部経験にくらべ割引かれるだけプロファイルは異ってくる。しかしいずれにしても、これらのプロファイルすなわち昇給カーブが年功的賃金の下では、勤続年数が一年ふえるごとに二十二%といったかなり急なカーブで上昇する形になっていることが多い。

このような昇給カーブのもとになっている定期昇給制度をこれからの企業が維持してゆくことは難しいのではないかと前述したが、それではどのようなカーブとして再設計する事が望ましいのだろうか。昇給カーブは前章で述べたメガトレンドの歴史的な変化という大きな環境条件変化の下では、その勾配をゆるやかにして行かざるを得ないと考えられる。

第一に、経済の成長が鈍化し、企業の成長が鈍化してくると、かつてのように年々の大幅な賃金上昇は望めなくなる。成長にともなう賃金の上昇は、ひとつは賃金ペース全体の上昇すなわちベースーアップの形で行われたが、いまひとつは成長を推進する技術進歩すなわち新しい技術の学習や技術の習熟の成果の分配として、経験にもとづく賃金率の上昇という要素を含んでいる。後者はここで言う勤続-賃金プロファイルの形状を決定する要素のひとつであり、経済成長そして企業成長の鈍化はこの要素にもとづく賃金上昇を低下させることになる。