2015年9月3日木曜日

バイアスがあった人口推計

旧推計に対しては、学者から、「出生率が回復するという仮定が甘すぎる」という批判が強かった。人口高齢化は厚生省の推計よりもっと厳しくなるだろうというのが、学者の多数意見たった。それにもかかわらず、厚生省は楽観的な見通しをこれまで変えなかったのである。新推計における見直しは、学者の批判のほうが正しかったことを示している。いうまでもなく、将来推計は難しい。しかし、多くの批判がある場合には、謙虚に耳を傾けるべきではないだろうか。

人口の高齢化は、日本が二一世紀において直面する最大の問題の一つである。とりわけ、社会保障費の今後の増加に関して、直接的な意味をもっている。「社会保障財政が抱える問題の深刻さを隠蔽するために、人口推計に意図的なバイアスが加えられていたのではないか」という疑いを払拭できない。

いずれにしても、日本経済の将来像を考える際の最も基礎的なデータが、これまで改訂のたびごとに深刻な方向に改訂されてきたのは、考えてみれば恐ろしいことだ。さらに恐ろしいことは、今回の推計でさえ、楽観的な。バイアスが残されているかもしれないということである。

人口高齢化は、さまざまな経済的影響をもつ。まず第一に、消費者の人口構成がシフトするので、需要構造もシフトする。若年者の需要が減り、高齢者の需要が増えるのである。これは、あらゆる産業に大きな影響をもたらすだろう。たとえば、住宅の経済的な意味は、従来は労働の再生産の場であった。高度成長期に大都市で建設された集合住宅は、そうしたタイプの住宅の典型である。

しかし、今後は、高齢者が生活する場としても意味が強くなる。したがって、職場への通勤よりは、日常生活環境が重視されるだろう。住宅の構造面でも、バリアフリーなどの特性が要求される。また、住宅の総数も、従来のように増えつづけることはなくなり、新規の建設よりは、既存ストックの改修や再活用が重視されるだろう。

教育も、大きな対応を要求される。若年人口が減少することは、対象人口が減少することを意味するからだ。進学塾や予備校などの教育産業は、今後衰退してゆくだろう。その半面で、介護などの対高齢者サービスの需要が増える。これらのかなりの部分は公的セクターで供給されるが、民間主体によるサービスも重要な意味をもつことになる。

出版物の内容や形態なども、若者向げのものよりは、高齢者向げのものが重視されるようになるだろう。観光地やレジャー施設なども、高齢者を対象としたものの比重が増えるだろう。以上で述べたのは、需要構造のミクロ的変化である。人口高齢化は、これだけでなく、マクロ経済面にも影響を与える。以下では、この側面について検討することにしよう。