2015年10月3日土曜日

治安の不良と政治不安定

集中排除とともに必要なのは、軍事的強権支配の解消である。まず必要なのは、共産主義の復活阻止と治安維持の名目で、軍が日常的に国民を監視・抑圧する制度の除去であった。これは、「国家安定化支援調整機構」(略称BAKORSTANAS)という名の軍による監視組織が二〇〇〇年四月に解散されたことで、最初の一歩が記された。

次に、従来、陸海空軍とともに国軍の一翼に位置づけられていた警察が、まずハビビ政権トで九九年四月から国防治安省直属となり、さらに現グスードゥル政権下では二〇〇〇年七月から大統領直属機関に変更されて、軍から完全に独立した。治安は警察、国防は軍という任務分担を鮮明にして、平時における軍の治安維持への関与をなくそうという意図によるものである。また、グスードゥル政権下では国防相に文民が起用されたことも注目に値する。

しかし、「二重機能」論にもとづく軍部の一般行政権への関与そのものが本当に縮小・廃止に向かうには、まだだいぶ時間がかかるのではないだろうか。二〇〇○年八月の国民協議会総会では、国軍議席を当面は温存することも決められた。軍のなかには守旧派的勢力が根強く残っており、その克服にはなお曲折が予想される。政治改革と並行して経済再建が進められねばならないことは無論である。大きな関門が三つある。

第一は、過剰融資で行き詰まった銀行部門の立て直しである。政府機関の銀行再建庁(BPPN、英語略称はIBRA)がこれを進めているが、その救済融資自体が新たな腐敗の温床となるなど、前途は必ずしも容易ではない。第二は、シンガポールなど国外へ逃避している国内資本(人は華人系)を呼び戻すことである。それができなければ、国内外いずれからの新規投資の誘致も難しいだろう。逃避の最大の原因は、治安の不良と政治不安定にあるのだから、この問題の解決は政治改革の進展如何と実は不可分の関係にある。治安が確保され政治が安定しなければ、ニ〇〇〇年五月以降ふたたび一米ドル=八五〇〇ルビア以下に下落しているルビア為替相場の回復も見込めないであろう。

第三は、経済危機以降それ以前にもまして大膨張した対外債務の元利返済を今後どうするのかである。対外債務は、二〇〇〇年八月の政府公表では、政府債務七五〇億ドル、民問債務六九二億ドルの双方合わせて総額一四四二億ドルにも立している。借金づけの体質を改めるには、同時に長期的な経済発展戦略のビジョンの見直しが必要となろう。しかし、その方向づけが定まったとは、まだとうてい言えない。